※本記事は、MarkeZineの特集記事からの転載記事です。2024年シーズン、4年ぶりのパーソル パ・リーグ優勝を遂げたプロ野球チームの福岡ソフトバンクホークス。公式動員数も史上最多の272万人を記録した同球団だが、好調の裏で公式アプリ「ためタカ!」のリニューアルを行い、ユーザー満足度の向上とMAU(月間アクティブユーザー)増加を達成していた。本記事では、福岡ソフトバンクホークスの山下氏、アプリ開発・改善を支援したレモンタルトの川島氏と井手氏の3名に、リニューアルの裏側を聞いた。球場体験を向上し、球場外でもつながりを作るアプリ「ためタカ!」最初にホークス公式アプリの「ためタカ!」がどのようなアプリか教えてください山下:ためタカ!は元々ファン向けのポイントプログラムであるタカポイントを貯める・使うアプリとしてリリースしました。その後コロナ禍に突入したことをきっかけに、ホークスに関する情報を集約する公式アプリとして機能追加を行ってきました。福岡ソフトバンクホークス株式会社 IT本部 IT戦略部 DX推進課 課長 山下 直翔氏ホークスのマーケティング活動において、ためタカ!はどのような役割を果たしていますか。山下:ためタカ!は球場内の顧客体験を向上するのはもちろん、球場外でもホークスとつながる役割を果たしています。野球観戦に来る方の多くは、年に数回しか球場に足を運びません。その中でも、自宅のテレビで観戦しているときに楽しめる機能を提供したり、プッシュ通知で有益な情報発信をしたりすることで、球場外でもホークスとのつながりを強めることが可能です。また、ためタカ!はファンクラブ会員、無料のタカポイント会員、非会員全ての方に利用いただけるので、ホークスファンの間口を広げる役割も担っています。つぎはぎな体験をリニューアルでシームレスに2023年、レモンタルトをパートナーにアプリのリニューアルを行ったと聞いています。その背景について教えてください。山下:先ほどお伝えしたように、様々な情報を集約させるためにWebサイトやチケットサイト、グッズのECなどの導線を適宜追加していった結果、つぎはぎの状態となり、アプリのユーザビリティが低下しているのではないかと課題を持つようになりました。そのタイミングで、一度アプリに必要な要素を整理し直すとともに、アプリの基盤も見直すことを決め、いくつかの企業の提案の中でレモンタルト様をパートナーに選びました。様々な企業から提案があった中で、レモンタルトをパートナーに選んだ理由はなんだったのでしょうか。山下:レモンタルト様なら、パートナー発想でより良い体験が作れて、アプリの成長につながるという期待感が持てたからですね。今回パートナーを選ぶにあたり、こちらが要件を定義して提案依頼するだけでなく、パートナーとして伴走しながら新しい企画を一緒に考えたり、パートナー自ら企画を出してくれたりするところが良いと考えました。レモンタルト様は、DXを総合的に支援する会社として、開発から保守、そして企画やコンテンツの提案までトータルでサポートしていただける点が良いと思い、リニューアルのパートナーになっていただきました。実際にリニューアルの取り組みを行う中で、伴走力の高さは感じられましたか?山下:現在も週1回で定例のミーティングを行っていますし、2025年シーズンに向けての話し合いも既に進めていて、多いときは月曜から金曜まで毎日相談しているので、ホークスのアプリ開発・運用をゼロから一緒にサポートいただいています。機能は減らさず、利用シーンに合わせたUIに続いて、リニューアルの内容についてレモンタルトの川島さんにうかがいます。まず、リニューアルはどのようなステップで行ったのでしょうか。川島:まず、ためタカ!を利用している方、利用していない方それぞれにアンケートとインタビューを行いました。日常と観戦という2つのシーンがある中で、現在利用している方はどのように利用しているのか、また利用していない方は何が課題になっているのかを調べ、アプリに対するニーズを探りました。そして、調査結果をもとにこれまでの動線や機能から必要・不必要なものを整理し、より良いUI/UXに落とし込んでいきました。株式会社レモンタルト 取締役CMO 川島 聖巨氏リニューアル内容についてはいかがでしょうか。山下:調査をすれば使われてない機能が出てくると思ったんですが、意外とどの機能も使われていて、実はリニューアル前から機能は減らしてないんです。それよりも、よくある利用シーンを特定し、その流れに合わせて機能の階層構造を整理したり、ユーザーがすぐ使いたい機能をタブやトップで表示したりしました。リニューアル後のアプリの主要タブ川島:たとえば、ポイントをためる群をTOPページ内で1つにまとめたのはもちろん、タブに関しても最も即時性の求められる会員証を中央に配置し、球場で使える機能を観戦タブにまとめるなどの見直しを行いました。タブにはバッジ機能も表示されていますね。人気の機能ということでしょうか。山下:バッジ機能はレモンタルト様とのリニューアルで新たに追加した機能です。起動日数や来場試合数はもちろん、春季キャンプへの参加、みずほPayPayドーム横BOSS E・ZO FUKUOKAの利用など、様々なところでバッジを獲得できるため、アプリを利用するモチベーションの一つになっています。最近では鷹祭 SUMMER BOOST meets 天神夏まつりとコラボレーションしたスタンプラリーも実施するなど、エンターテインメント性を作りながらアプリの起動につなげています。パフォーマンス向上と起動のきっかけ作りでアクティブ率を向上リニューアルを行う中で、特に意識していたことはありますか。井手:技術的な観点では、いつでもスムーズに開けて、快適に使えるパフォーマンスを担保するところから実装しました。電波状況が悪くても会員証はすぐ出せる、アクセスが急増する場面でも使えるなど、ユーザーが不快に感じないように開発を行いました。また、拡張性とパフォーマンスを重視し、基盤をゼロベースで設計をしなおすことで、様々な機能が球場でも展開できるようにリニューアルを行いました。株式会社レモンタルト 取締役CTO 井手 達朗氏山下:観戦体験の中で楽しめるアプリの使い方は何かを意識してリニューアルに取り組めました。以前は球場でポイントを貯めるだけにアプリを開くだけでしたが、今は試合予想クイズやスタジアムガチャなど、観戦しながら楽しめる機能が提供できています。試合予想クイズに関しては、ポイント獲得機能に次ぐアプリ起動のきっかけになっています。画像上:試合予想クイズのUI画像下:ホークスビジョンで行っている試合予想クイズの告知川島:試合予想クイズは、野球知識に関わらず楽しめるよう、得点数などわかりやすいものを対象とした来場者限定の企画です。毎月予想対象を変えているので、定期的に来場する方も違う楽しみ方ができるようになっています。他に意識していたことはありますか。山下:アクティブ率をいかに高めていくかについても重視していました。リニューアル前からためタカ!のインストール数自体は伸びていて、球場で告知をすれば一定の新規ユーザーは獲得できていました。しかし、DAUやMAUを見ると想定よりも増加率が低く、開くきっかけが少ない状態でした。しかし、リニューアルを通じてバッジ機能の実装や日々のゲーム機能の見直し、トップ画面への選手ポスター配置など、試合が無い日でもアプリを開く楽しみを作ってきました。新機能追加による体験刷新の全体像(クリック/タップで拡大)山下:リニューアルを通じ、「日常」と「観戦」のどのような時も楽しんでいただける体験を新機能で設けることで、1日でも多くアプリを開いていただく工夫を実装できていると感じています。MAUが大幅増加!チケット販売数にも好影響リニューアルによって得られた成果を教えてください。山下:リニューアル後のアンケートでも、アプリの操作性や動作のスピードが改善したなど、ユーザーの満足度も向上しています。その結果、ユーザーのアクティブ率も大きく上がりました。MAUはリニューアル前の1.5倍近くに増加しており、インストール後も使っていただけるアプリに成長したと感じています。さらにアプリ起動のきっかけが増えたことで、試合に関する情報をはじめ、様々なホークスに関する情報をお客様に届けることができますし、プッシュ通知を見ていただける可能性も高まっています。川島:目標としているアクティブ率が達成できているのはもちろん、チケット販売にも貢献できており、アプリ経由のCV数は約3倍まで伸びています。井手:パフォーマンスに関してもシーズンを通して機能を安定して提供できました。テレビ中継と連動した機能があるため、中継の放送時間にはものすごくトラフィック量が増えるのですが、それでもトラブルは起きませんでした。アプリが落ちるといった事象があると、SNS上などで悪評が広がってしまうので、守りの部分でも貢献できたと思います。山下:今回のリニューアル以降、他部署からの相談も増えており、様々なところでアプリが活用できると社内の期待度も高まっています。ファン同士のつながりを強固にするアプリに最後に今後の展望を聞かせてください。山下:今回のリニューアルではホークスからファンの皆様に役立つ、楽しんでいただける情報とサービスの提供を行ってきました。今後は、ためタカ!がファン同士のつながりを生むきっかけになりたいと考えています。アプリから観戦に行く友だちを誘ったり、集めたバッジを見せ合ったりするなど、ファン同士のコミュニケーションが活性化する機能提供を目指します。川島:この1年は、ためタカ!への各部門からの期待と同時に、デジタル×コンテンツの可能性を感じる1年でした。ホークスの持つコンテンツの魅力を最大限活かし、球団とファンの距離をより縮められる取り組みを引き続き一緒に作っていきたいなと思います。井手:今後も柔軟性を持って機能開発に取り組みたいと思っています。ためタカ!の場合、他部署の方から要望をいただいたり、ファンの方が想定と異なる使い方をしたりするケースが多くあります。シーズン中に生まれる様々なやりたいことを実現できるよう、今後は更に各機能の汎用性の高さを意識して開発に取り組んでいきたいです。